信楽火襷
高橋光三 信楽火襷長皿
今月の『季節の点心』より。今月の点心の向付はガラスの器を使います。夏に向かって鬱陶しい時期ですので、ガラスは涼しげに映っていいのですが、よそからのお客様はやはり信楽の器を期待されます。今回は(口取り)に信楽の器を使うことにしました。
高橋光三さんの『信楽火襷長皿』です。光三さんは高橋楽斎窯の次期当主で、五代・楽斎を襲名される方。と申しましても、ご本人は構えることなく、いたって自然体で作品を制作されています。作品には作者の人柄まで出るといわれますが、光三さんの器もしかり。温厚でてらいのない光三さんそのままに、丁寧に仕上げられた使いやすい器は料理を引き立ててくれます。光三さんはお若い時に茶懐石の老舗『柿傳』で学ばれたこともあって、焼締の食器を作られても実にお上手。私は普段、こういう焼締の器には口取りのような繊細な盛り込みは盛りません。力強い信楽焼締の器には繊細な料理が逆に貧粗に見えてしまうからです。しかし、光三さんの器は繊細な料理をも受け入れてしまう懐の深さも備えた焼締の器です。
この長皿は“火襷”の文様があります。ご存じのように“火襷”とは、備前焼の手法の一つで、器をかさねて焼くときに器物どうしがひっつかないようにするため藁を挟んで焼成したのですが、その時に酸化焼成すると藁のアルカリ分と土の中の鉄分とが反応して緋色の筋が現れ思わぬ“景色”になったものをいいます。備前焼の手法なのですが、光三さんは備前の亜流ではなく、あくまで“信楽らしい”ものにこだわられます。穏やかな中にも一本筋の通った信楽。老舗の窯の(王道)を行く光三さんらしい器です。
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